あずかった謎:「公民館の図書室の詩集が、一冊だけ、いつも紙が湿っている。書架は雨漏りもないし、隣の本はなんともない。貸出カードを見ても、もう何年も借り手がいない。気味が悪いので処分しようかという話が出ている」。図書室の当番の方から。
観測:現物を見せてもらいました。湿っているのは、いつも決まったページのあたり。開き癖がついていて、そこだけ、紙が柔らかくなっています。貸出カードは白紙にちかい。――借りられていないのに、読まれている本、ということになります。
当番の方に頼んで、雨の日の午後、書架の陰で本の様子を見せてもらいました。閉室まぎわ、傘を持ったおじいさんが、慣れた手つきでその詩集を抜き、窓際で開きました。眼鏡を外して、ページに、ずいぶん顔を近づけて。
そっと、返す:湿り気の正体は、雨でも、カビでもありませんでした。おじいさんは、若いころ、その詩集を奥さんに貸したことがあるのだそうです。「借りて帰ればいいのに」と当番の方が声をかけると、「借りてしまうと、返しに来る理由がなくなる」と笑っておられたとか。決まったページが何の詩なのかは、聞きませんでした。そこから先は、あずかりものの外です。
詩集は、処分の話が消えて、いまでも同じ書架にあります。当番の方は、雨の日には窓際の椅子を、一つ、空けておくことにしたそうです。