あずかった謎:「裏の家は、もう二年も空き家のはずなのに、夜になると、二階の窓に灯りがともる。朝には消えている。人の出入りは見たことがない」。夏の盛りに、ご近所の方から。灯りのともる家、というのは、それだけで、少し、こわいものです。
観測:夜、外から拝見しました。たしかに、二階の窓が、ぼんやり明るい。ただ、灯りのつく時刻が、毎晩そろっています。人の暮らしの灯りは、そんなに行儀よくありません。機械の律儀さです。
家の管理をしている親族の方に連絡を取り、一緒に上がらせてもらいました。二階の寝室、枕元のスタンドに、古いタイマーが噛ませてありました。文字盤の設定は、夜の七時半に入、朝の五時に切。埃をかぶって、それでも、毎晩まじめに働いていました。
そっと、返す:この家に住んでいた方は、灯りを消して眠るのが苦手な人だったそうです。タイマーは、その人が使っていたままの設定で、残っていました。親族の方は、コンセントに手を伸ばしかけて、少し迷って、やめました。「電気代は、たいしたことないので」。いまも、あの窓は、夜になるとぼんやり明るいはずです。空き家の灯りの正体は、壊れた機械ではなく、残った習慣でした。この街には、そういう灯りが、ぽつぽつあります。
――余談。帰りぎわ、階下の柱時計が目に入りました。長く止まった振り子時計で、針は、たしか、六時前を指していました。あの家の時計が何時で止まっているのか、なぜだか、いまでも時々、思い出します。